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【感想】"異世界介入型技術同人誌"『Gleamどうわ』@技書博7

技術書博覧会7で頒布されていた「Gleamどうわ」の感想文です。

これは、Elixirの入門書を執筆されたみずりゅさんの最新作です。

booth.pm

mzryuka.hatenablog.jp

なおこのタイミングで、Gleamというプログラミング言語を初めて知りました。

github.com

Gleam is a friendly language for building type-safe, scalable systems!

Rust製の、ErlangとJavaScriptが出力できる静的型付け関数型言語。 書き味がRustとElixirを融合させたようなものだそうです。2019年にv0.1がリリースされています。

ちなみにこの本、"異世界介入型技術同人誌"というジャンルとして切り込んでいます。

静的型付けな関数型プログラミング言語Gleam(グリーム)の紹介。

型のあるElixirという表現もできなくもなく。

BEAM系言語でもありErlangやElixirとの親和性も高い。

まだ1.0版はリリースされていないが、Fly.ioがサポートもしており、スポンサーでもある。

本書は、そんなGleamを「グリム童話」の物語の中に登場させて、

物語の登場人物にGleamについてアレコレとお話しさせる、

"異世界介入型技術同人誌"となっております。

一体どんなジャンルなんだ……ってことで、読んでみました。

ヲタクはすぐ歴史を改変しようとする…(褒め言葉)

ヲタクを歓喜させる要素として改変系は鉄板ですよね。タイムリープや時間停止系の作品では、時間を操って本来発生するはずだった選択を変えることでイベントを改変します。
なんで鉄板なのかというと、やっぱり俺たちは常に「願望を現実に変えたい」「好きなものもっと広まれ」とか思っているわけですよ。

そういう強い気持ちを持っていると世界線に介入できる能力者になってしまって、あれこれやっちゃいますよね。シュタインズゲートでも、登場人物はすぐ調子乗っちゃってしばらく色んなことをしでかします。

本作、Gleamどうわ(以降"みずりゅ本")ではふたりの少女の介入によってシンデレラのサクセスストーリーの改変が実行されます。特殊能力を持った少女の願望とは一体、と思ったんですがプロローグですぐにわかりました。

そう、この本の主人公であるリィムちゃんこそ、Gleam好きすぎてシンデレラストーリーを強引に改変しちゃう限界ヲタク少女だったのです。
表紙の黒髪ロングの子がリィムちゃんですが、クール系ヲタク美少女ということでしょうか。いいキャラデザしてますね。

プロローグで「一緒に手伝ってくれますか。今はまだ小さい、Gleamへの導きの物語を」などと言っており、とにかくGleam沼に落とそうとするヲタクである可能性が示唆されています(え、そんな話なのか?)。

実際に読みすすめると、シンデレラがいじめられているシーンに介入して「かわいい娘のためにはやくGleamをインストールしておけ」と改変を行っています。シュールすぎる展開。こんな強引な変更は限界ヲタクのやりそうなことですわ……(褒め言葉)。

そういうわけで、リィムちゃんは相方のエリィちゃんの困惑も気にせずシンデレラにGleamを触らせます。
そして、シンデレラがインスコと環境設定をしてコミュニケーションしているうち、いじめていたはずの周囲に変化が起きて――?

という流れでGleamどうわは進んでいきます。Gleamヲタクが介入したシンデレラはどんな結末を迎えるのか、リィムの心は満たされるのか、リィムのヲタ属性は果たしてGleamだけなのか(表紙で彼女が持っている本がもしかしたらヒントだったのかもしれないが)。

リィムたちが介入したことによって残酷なグリム童話がどのように変化したのか、それは本書を手にとってお確かめください(Gleamの入門書しても使えますよオホホ)。

補足すると、ここで展開されているシンデレラはグリム童話版をベースにしているとのことです。
展開がまあまあ残酷なので、気になる人は見てみてください。

ehon.space

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booth.pm

余談: 「物語をベースにした技術書」の独特のむずかしさ

---さて、ここからは余談です---

結城浩先生の『数学ガールシリーズ』のようなオリジナリティのある世界観と、ある程度の物語性を持った書籍というは、通常の技術書を執筆することとは全く別のスキルが要求されます。

というのもまず普通に物語を構築する必要があり、しかも物語内で技術を絡める必要があるわけです。必然性や異物感が残ると読者は置いてけぼりになったりうまく噛み合わない作品になってしまうので、1作品を書ききること自体、慣れていないと大変な作業であると思っています。

この独特のむずかしさは、僕がずっと物語をベースにした技術書*1を執筆してきた経験からも感じています。

自分で言うのもなんですが、このタイプの技術書にトライすることへの勇気と、書ききったことは本当に尊いです。お疲れさまでした!

次回作を楽しみにしています!

*1:ソフトスキルではあるが