窓を見る。知らない土地だ。
一定のリズムで車両が揺れる。ガタゴト。
別に居心地は悪くなかった。
窓の外の風景が、新しい日々を予感させていたからだ。
「さあ、今日からここが君の仕事場だ」
最低限の衣食住であったが、毎月最後の仕事終わりには冷たいビールをくれた。
それが彼らには命のオアシスで「なんていい主なのだろう」と讃えた。
「君、明日からまた違う仕事場に行ってもらうよ。なに、今日までの経験を活かしてくれればそれでいい」
奴隷は奮起した。
だって、あの主様がそう言うのだから。
しかし、主は奴隷たちを死ぬほど働かせるようにした。
毎月最後のビールを飲む元気もないほどにだ。
その対価はごく僅かのまま、変化はない。
「君ね。これくらいで弱音を吐いてもらっちゃ困るよ。最近の若い奴隷はだめだね。おい、代わりをよこせ」
疲弊した奴隷の中には力尽きるものもいた。
”私の代わりに、君はここを生き延びて”
次々と、消えていく灯火を見ながら奴隷たちは決断する。
奴隷たちは反乱を起こしたのだった。
毎日毎日、たとえ天気は良くても、心は一度も晴れなかった。
地獄のような毎日は、脱獄とともに終焉を迎えた。
逃げ切れなかった奴隷もいる。逃げる気のない奴隷もいる。
彼らのことを思うべきか迷ったが、それは彼ら自身の選択と準備不足が招いた結果かもしれないと割り切った。
自由だ
自由だ。これで妻を迎えられる。
今まで苦労をかけたな。
一つ歳下の彼女は、すでに倍近い対価をもらっていた。
奴隷は言った。
「必ず、すぐに取り戻すから」
しかし奴隷はがむしゃら走ることはしなかった。
走らず、妻と一緒に歩きながら、人生を取り戻すために戦った。
奴隷は人に昇格し、その翌年には人間としてより高い対価をもらうようになっていた。
「妻よ。ようやく君に追いついた。貧しい日もあった。大変な日もあった。でも、よくぞ今日まで一緒にいてくれた、本当にありがとう」
その奴隷はこれまでの経験を精一杯活かし、さらに別の仕事を始めた。
呼応するように、別の奴隷地区からの脱獄者が集まり始めた。
「あゝ主様、あなたの言ったことは正しかったようです。今日までの経験は、本当に役に立っていますよ。どうか、夜道にはお気をつけて」
窓を見る。知っている土地だ。
一定のリズムで車両が揺れる。ガタゴト。
居心地は悪くなかった。
いつもの窓の外の風景も、新しい日々を予感させてくれる。