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【技術書典5】【ネタバレ注意】かろてん著の "デザインパターンなのに、エモい" は確かにエモかった

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ども。今日は技術書典5でゲットした戦利品の話です。

戦利品のひとつに、友人のかろてんが書いた「デザインパターンなのに、エモい」という技術書がありました。

booth.pm

まずは彼の作品から読まねばなるまいということで、読みました。
ぼく自身はがっつりプログラマではないので、こちらの技術書に書いてあるデザインパターンはほぼ初見状態です。

ソフトウェア開発におけるデザインパターン(型紙(かたがみ)または設計パターン、英: design pattern)とは、過去のソフトウェア設計者が発見し編み出した設計ノウハウを蓄積し、名前をつけ、再利用しやすいように特定の規約に従ってカタログ化したものである。

デザインパターン (ソフトウェア) - Wikipedia

そんな状態でも、「へえ。なるほど。デザインパターンの概要がなんとかなくだけどわかるな。もともと概要を知っている人ならもっと楽しめそうだ」なんて思いながら読んでいました。

駆け出しエンジニアの人にも勧めたい。

かろてん最大の強み、物語でわかるシリーズ

彼の特徴は、ソフトウェアの概念を物語に落とし込んで説明するところです。

これまでも、Qiitaに投稿されて定期的にバズっています。

qiita.com

qiita.com

qiita.com

読ませて、理解させて、最後は「面白かったな」と満足感をくれます。
そういう話を書けるかろてんが、一冊の本を出版したというわけです。

デザインパターンなのに、エモい

「デザインパターンなのに、エモい」はこんな本です。

「デザインパターンの本を読んだけど、理屈っぽくていまいちよくわからなかった」人のために、「デザインパターンを本能で理解する」本を書きました。

目次

  • はじめに
  • observer pattern ~私、オタクの名前を覚えなくていいんだ!~
  • strategy pattern ~もう自分が何をやっているかなんて、知らなかった~
  • decorator pattern ~スタ○バックスだ!~
  • mediator pattern ~こんなことなら、出会わなきゃよかったんだ~
  • あとがき

この目次のラインナップからして独創性がすごいです。本にも書いてありますが、生み出すのは毎回非常に苦しんでいるようです。

デザインパターンをほぼ知らなかったぼくが読んで

率直に言うと、エモかったです。
エモい気持ちになった僕は色々と考えました。

エモかったぜお前の本!というのをどうやって伝えればいいだろう。Twitterの140文字だけで終わらせるのはもったいない。
かといって、デザインパターンをよく知らない僕が知ったかぶりするのも微妙。

かろてんの書いたこの本は確かにエモさがあった。この『エモくなったんだぜ』という思いを僕なりにかろてんに伝えたいと思いました。

読んでいて思ったのは、物語の程よさ。
そうだ。彼の書く物語は想像を掻き立てる。

続きが読みたい!僕は読了後にそんな気持ちになったわけです。

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なので、続きを書きました。


以降は、かろてん本の第5章 mediator patternのネタバレを含んでいます!!ご注意ください!!

こんなことなら、出会わなきゃよかったんだ
~Broken Down~

 僕はぼっちだ。ずっと一人。
クラスメイトのことは知らない。

 いや、知りたくもなかった。何度も言うが僕は一人でいいのだ。
学校には行かなければならないけれど、僕のような人間が教室に居続けるには荷が重い。
誰それが付き合っているとか、誰が嫌いとか、誰が好きとか、どの先生がうざいとか。そういうことは別に知りたくもない。
知りたくもないし、知らなかった。

 知っているのは、虫もへばるような猛暑だろうと保健室は最高に過ごしやすいということだ。
僕はいつものように、保健室の先生の近くの椅子に座り、本を読み始める。
やはり快適だ。教室ほど広くない部屋のため、クーラーの効果が行き届いている。
そのまま、夢中でページを捲った。授業が終わる鐘が鳴り、始まる鐘が鳴る。それを何度も繰り返した。
今日という日が終わるまで、いつしか学校にいなければならない日が終わるまで、僕はここでページを捲り続けるんだろう。



「ぼっち君」

 とある日、保健室の先生が唐突に僕の名前を口にした。
何でしょうと僕は顔を上げた。

「ぼっち君はいつもそこに座るのね。他も空いているわよ?」

 保健室の窓に差し込む陽が朱かった。
ああ、もうこんな時間か。

「他、ですか。なんでですかね。いつもここに座ってしまうんです」
「そうなんだ。前任の保健医の方は、何も君たちのことは言わなかったから不思議だなって」
「君たち?」

 僕は一瞬混乱した。君たちとは、誰のことを指しているのだろう。
とはいえ夏休みが終わった区切りで保健室の先生は変わっていて、今の先生は赴任してきたばかり。
多少トンチンカンなことを言ってきても仕方がないと割り切った。

「そう、君たち。だって不思議じゃない、いつも同じこの部屋にいるのに一切話すどころか目も合わせない。何かあるなら、相談してみない?一応、カウンセラーの資格持ってるのよ、先生」

 先生は得意げにニヤリと口角を上げた。 カウンセラーの資格をもっている割に、ずけずけと繊細な話題について振ってくる人だった。あるいは、僕ならずけずけと話してもいいと思ったのだろうか。
いくら美人でも、やっていいことと悪いことがある。

「結構です。もう放課後なので、帰ります」
「まあまあまあまあそこをなんとか!」

 やたら押しが強い先生だ。やっぱりこの人、僕なら何をしてもいいと思っていそうだ。

「とりあえずほら、このベッドにでも座りなよ。今さっきここ空いたしね」

 僕は重い腰を上げて、先生が手でバンバンと叩くベッドの方へ向かった。
しかし、そこで脚が止まった。
なぜかはわからない。ただ、それ以上は先へは進んではいけないと本能が警告している。

「先生……やっぱり今日は帰りたいのですが」

 僕の顔色を見た先生が、ほんの一瞬、眉を上げた。

「わかった。今日はもう遅いし、お開きにしましょう。じゃまた明日ね」

 ひらひらと白衣をなびかせて手を振ってきた。
新しい保健室の先生は、前任と人と比べて随分若いように見えた。
それもあって、きっと僕との距離も近いのだろう。

 帰り道、頭痛がした。嫌な痛みだ。
きっとあの先生が変なことを言うからだ。
それに、あの先生の笑顔はなんだか見ていて胸が苦しくなる。
先生が嫌いだからとかじゃない。そう、何か大事なことを忘れているような、そういう感覚が胸を締め付けてくる。

「また明日、か」



「やあやあ来たねぼっち君」
「まあ、今日は登校日なので」

 保健室の扉を引くと、開口一番にそう言われた。
中に入ると、見たことない人が何人か先客として座っていた。

「ぼっち君はさ、今日も本を読むのかい」
「はあ。授業の課題は一応ちゃんと出してますし。その課題はだいたい家で終わるので、ここでは本を」

 『ッカー!偉いねぼっち君は』と先生がリアクションする。酔っ払ったときの父親みたいな反応をしないでほしい。仮にも先生は、若くて綺麗なのだから。

「それでねぼっち君。昨日の続きなんだけども……」
「結構です」

 そう言うと先生は露骨にがっかりした。随分と表情豊かな先生が担当になってしまったようだ。

「そんなに誰かと話したいなら、そこにいる他の生徒にしてはどうですか?」

 僕は口調荒めにそう言い放った。あまりにもしつこかったから、つい感情が出てしまった。
すると、先生は目を丸くする。直後、うっすらと意地悪な笑みを浮かべた。

「おや、ぼっち君。君はここにいる”他の生徒”のことが見えるのね?」

 どきりとする。心臓が一気に速く脈打ちだす。

「ぼっち君。私はずっとね、ここにいる"みんな"、お互いのことが見えてないんじゃないかって思ってたの。目を合わせないんじゃなくて、そもそもここにお互いがいることすら認識してないんじゃないかって。けど、どうやら違うみたいね」

 そうだ。先生の言う通りだ。僕にはちゃんと他の生徒のことが見えている。
けれど、誤解していそうなことがあった。

「認識はあります。けど面識はありません。僕は一度も教室に顔を出したことがないので」

 保健室で先生と口論しているにもかかわらず、保健室にいるその他の生徒はピクリとも表情を変えない。
そんなものだ。仮に僕がその立場でも、絶対に表情を変えるものか。無心になって本のページを捲り続けてやる。

「ふーん。そうなんだ。それはきっと、ここにいる”みんな”同じなのかな」
「さあ。僕は”みんな”がいつ来て、いつ来ないのかは知りません。……知っているのは、あなたですよね、先生」

 僕の言葉で何かに気づいたのか、先生は『うふふ』と笑った。

「色々理解が追いついてきたよ。ぼっち君のおかげで、私はやっとこの保健室を引き継げた気がする」

 ”みんな”とやらは、表情を変えずにずっと同じ姿勢を取っていた。その様は、予め決められた動作しかできないマシーンのようだった。

「ああ。うん、ぼっち君。大丈夫、もうしつこく聞いたりしないから。ささ、読書に戻ってよ」

 先生は笑い泣きで溢れかけた雫を右手で掬うと、すぐに保健室から出ていった。
僕にようやく、一日ぶりの安息の時間がやってきた。



 窓から見える陽が傾いた。今日もそろそろお開きだろうか。
気づけば他の生徒もいなくなっている。職員室に部屋の鍵を返しに行こう。

 職員室の前につき、ノックをしようと手を振り上げたときだった。
新任の保健室の先生の声が外まで漏れていた。何か言い合っているようだ。

「彼らを疎結合にしたのは前任者ですか!?どうしてそんなことを!?」
「まあまあ落ち着いて先生。疎結合にしたのはぼっち君本人の希望ですから」
「き、希望?あの子がですか?」
「そ。だから実施したんだと思うよ。あまり前任者を責めないでやってくれ」

 疎結合……?ってお互いのことがわからなくなるあの……。
そして、それを僕が希望した?つまり、僕は”みんな”のことを知っていた?
嘘だ!嘘だ、そんなわけない。だって、覚えていない。”みんな”のことなんて。

「きさらぎさんは……きさらぎさんはほんの少しだけど覚えていました。ぼっち君のことを。だから、まさか疎結合だとは」
「それは本当かね、先生」
「はい。ぼっち君だとは言ってませんでしたが、『大事な人のことを忘れてしまった気がする』と。その相手の特徴が、あまりにもぼっち君に似ていたので」

 きさらぎ……?うっ……胸が……っ。

 僕は耐えきれず、そのまま職員室のドアにぶつかって倒れ込んでしまった。
ものすごい音がして、職員室の中から先生たちが一斉に出てきてくれた。

「き……さらぎ……」
「ぼっち君!」
「せ、せん……せ」
「わかってる。今は保健室に行こう。君は一旦特別だ」



 知らない天井だ。嘘だ。知っている。保健室の天井だ。

「ぼっち君、落ち着いたかい」
「先生……僕は」

 先生は僕の頭をそっと撫でると、ニコっと優しく笑った。

「君、立ち聞きしていたね。趣味が悪いぞ」
「いや、保健室の鍵を返しに行っただけです」
「そう」

 先生はそう言うと、水を持ってきてくれた。
それから僕の身体をベッドからそっと起こした。

「ぼっち君、さっきの話を聞いていたよね」

 僕は黙った。疎結合の件だ。

「どうして疎結合を?」
「わかりませんよ。僕にも」

 そう、わからなかった。僕が疎結合を希望したことすら、僕は心の奥に仕舞い込んで忘れていた。
それに、その理由はきっと疎結合になった誰かに起因しているはずだ。それならば、絶対に覚えているはずがない。

「きさらぎさん、じゃない?」

 その単語に呼応するように、僕の鼓動は速くなった。
けれど僕は知らぬふりをして口を開く。

「誰ですか……その人」
「君が今寝ているベッドに、さっきまで寝てた女の子」

 うわっ!と僕は思わずバッタのように飛び上がった。

「あっはは!そんなにびっくりしなくても」
「はーぁ。心臓に悪い」
「ねえ」

 先生は突如、声音を変えた。

「ぼっち君。君はこのままでいいの?」
「このままって、何がですか」
「何がって、もうちょっとは思い出してるんじゃないの。きさらぎさんのこと」
「いや、ほんとに何言ってるかさっぱりですね。僕がどうして彼らのことを……」
「ふふ」
「がっ……」

 僕は致命的なミスをした。

「”彼ら”……ね」
「くっ……」
「人生は、積み上がっていくものだよ。積み上がってできているのが、今のぼっち君だよ」

 『おわかり?』と言いたげに先生は先輩風を吹かせてきた。
けれどその笑顔は、いつも以上に美しかった。

「先生、僕は彼らの邪魔がしたかったわけじゃないんです」
「わかってる」
「ただ、僕が僕のために、みんなを疎結合にしてしまった」
「うん」
「きさらぎに、謝りたい……いや、謝りたかった」

 僕の目には自然、涙が溢れてきた。
どうしてあんなことをしたんだろう。ぼくは、あの日のことを忘れたかった。
守られることのない約束なら、いっそ約束したことも忘れてやればいいと思った。
くろさわのことも、僕はやっといい友人ができたんじゃないかと思っていたじゃないか。

「僕は……とんでもないことをした」

 俯いた僕に、先生は対照的に明るい声で言った。

「ぼっち君、君は疎結合のことをちょっと誤解しているようだね」

 先生は人差し指を立てて得意げにそう言った。

「疎結合っていうのは、”ゆるく繋がっている状態”のことを言うのよ。だから必ず、また密結合できるわ。人生は積み上がっていくものだよ、ぼっち君」



「おっはーぼっち君!」
「あ、お、おはよ」

 教室。僕は人口密度の多い場所に居た。
クラスメイトに挨拶を返すと、自分の席に歩いた。

「おーぼっち、最近ちゃんと来るようになったな!今度カラオケでもいこーぜ!」
「あ、ありがと。予定確認しておくよ」

 まだ誰かに誘われるのは慣れない。でも、前よりは前進していると思う。
人生は積み上がっていくものだよと教えてくれた保健室の先生の言葉を信じている。

 先生は、あの猛暑の夏が終わったあと、またしても担当変更で変わってしまった。
それと同時だっただろうか、あの保健室にいた生徒も全員退去命令が出た。いや、学校の保健室から追い出すなんてなかなかそんな判断しないだろうに。
学校側の指示は、『保健室に来るなら家に居ろ』だった。けれど、僕は先生の言葉を信じて秋から教室に行くようにしていたのだった。

 席に座り、僕はまだ登校して来ていないであろう、空いた隣の席を見やった。
すると、後ろから聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。
その人は、はらりと長い髪を耳にかけてから、僕を覗き込んできた。

「おはよう、ぼっち君」
「おはよう、きさらぎ」

冷たい秋風が窓から教室に吹き抜けた。
僕は今日も、きさらぎと会うためだけに学校に行く。

本編はこちらで読めます

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